スタートアップの成功には、優秀な人材の確保と適切な労務管理が欠かせません。
しかし、起業直後は事業の立ち上げに追われ、労務管理の優先順位が低くなりがちです。
その結果、法令違反や従業員とのトラブルにつながるケースも少なくありません。
そこで、スタートアップが最低限押さえておくべき労務管理のポイントを解説します。
目次
1. 労働契約と就業規則の整備
従業員を雇う際は、必ず労働条件通知書もしくは雇用契約書を書面または電子データで交付し、労働条件を明確にしましょう。特に、雇用形態、賃金、労働時間、休日、残業代の支払い などは誤解が生じやすいため、曖昧な表現を避け、具体的に記載することが重要です。
また、常時10人以上の労働者を雇う場合は、就業規則の作成・届出が義務 となります。就業規則を整備することで、社内ルールが明確になり、労使間のトラブルを未然に防ぐことができます。
2.勤怠管理の重要性
適切な勤怠管理は、労働時間の把握と給与計算の正確性を確保するために不可欠です。特にスタートアップでは、少人数で業務を回しているため、従業員が無理をして長時間労働になりがちです。しかし、従業員の労働時間を正確に把握していないと、未払い残業代の発生や労働基準監督署の指導 につながる可能性があります。
勤怠管理のポイントとして、
- タイムカードや勤怠管理システム を導入し、労働時間を正確に記録する
- 休憩時間を確保し、過重労働を防ぐ
- 36協定(時間外労働・休日労働に関する協定届)を届け出る(残業が発生する場合)
といった対策が必要です。
勤怠システムは無料で使えるものもありますので、手軽にトライしやすいかと思います。
3. 最低賃金の遵守
賃金は法律で最低額が定められており、最低賃金を下回る給与設定は違法 となります。最低賃金は都道府県ごとに異なり、毎年見直されるため、最新の最低賃金額を確認し、適正な給与を支払うことが必要 です。ちなみに東京都は2025年9月30日まで「1,163円」ですが、今年の10月にさらに上がる見込みです。
また、給与には 固定残業代を含めるケース もありますが、適切な記載がない場合は違法とみなされることがあります。「○時間分の残業代を含む。超過分は別途支給する」 など、具体的に明記することが重要です。
4. 残業代の適正な支払い
労働基準法では、1日8時間・週40時間を超える労働は 時間外労働(残業) となり、以下の割増賃金が必要です。
- 時間外労働(法定労働時間超過分) → 25%以上の割増
- 休日労働(法定休日の勤務) → 35%以上の割増
- 深夜労働(22時〜5時の勤務) → 25%以上の割増
これらの残業代を適切に計算し、未払いが発生しないように注意しましょう。特に、「みなし残業」や「裁量労働制」などを適用する場合は、適法な運用が求められる ため、事前にご相談ください。
5. 社会保険と労働保険の加入
法人の場合、代表者1人でも 健康保険・厚生年金保険 への加入が義務付けられています。また、労働者を1人でも雇うと、労災保険・雇用保険 の加入が必要になります。
未加入のまま運営すると、後から保険料を遡及徴収されるだけでなく、罰則の対象 になることもあるため、従業員を雇用したらすぐに手続きを行いましょう。
6. 健康診断の実施
従業員を雇った場合、年に1回の定期健康診断の実施が義務付けられています。これを怠ると、労働基準監督署から指導を受けることがあります。
また、スタートアップは長時間労働になりやすいため、従業員の健康管理にも十分配慮することが重要 です。メンタルヘルス対策として、ストレスチェック制度(従業員50人以上の場合、義務) の導入を検討するのも有効です。
まとめ
スタートアップでは、事業の拡大に意識が向きがちですが、適切な労務管理を行わなければ、トラブルや法令違反のリスクが高まります。
- 労働契約や就業規則の整備
- 勤怠管理と労働時間の把握
- 最低賃金や残業代の適正な支払い
- 社会保険・労働保険の加入
- 健康診断の実施
といったポイントは、事業の安定した成長のためにも不可欠です。労務管理に関して不安がある場合は、社労士に相談しながら進めることで、安心して事業を運営できます。
スタートアップの成長を支えるためにも、早めに適切な労務管理を整えましょう!
特定社会保険労務士 新木ゆずは