無期転換ルールの見直し
― 2024年4月改正で「説明義務」が重くなりました ―
目次
はじめに:無期転換ルールって何のための制度?
「無期転換ルール」とは、
同じ会社との有期労働契約が通算5年を超えたとき、労働者の申込みによって期間の定めのない契約(無期契約)に転換できるルールのことです(労働契約法18条)。
雇止めの不安を減らし、有期契約の方が安心して長く働けるようにするための仕組みですが、
十分に周知されていなかったことから、
令和6年4月(2024年4月)から労働条件の「明示ルール」が大きく見直しされました。
令和7年度の現在も、この改正内容がそのまま最新ルールとして適用されています。
1.改正のポイントは大きく4つ
令和6年4月改正(労働基準法施行規則の改正)により、
無期転換ルールまわりで会社に新しく義務付けられたポイントは次の4つです。
① 契約期間の「上限」の有無と内容を明示しなければならない
有期労働契約を結ぶとき・更新するときには、これまでも
「更新の有無」や「更新判断の基準」を書面で示す必要がありましたが、
改正後は、それに加えて 「通算契約期間または更新回数の上限」を設ける場合は、その有無と内容の明示が義務になりました。
例:
「更新上限あり(通算契約期間 5 年まで)」
「更新回数の上限あり(更新 4 回まで)」 など
この明示義務に違反すると、30万円以下の罰金の対象となります。
② 上限を「新たに設ける/引き下げる」ときは理由説明が必要
最初の契約では上限を書いていなかったのに、
後から契約更新のタイミングで
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「通算5年までにします」
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「更新は3回までにします」
などと 新しく上限を設けたり、もっと短くする場合には、
その理由をあらかじめ説明する義務が生じます。
実務的には、
「無期転換を防ぎたいから」という本音だけでは説明にならず、
そもそもなぜ有期契約にしているのかを見直すきっかけにもなります。
③ 無期転換の権利が発生する更新時に「無期転換の案内」と「転換後の条件」を明示
有期契約の更新によって、通算契約期間が5年を超えることになるとき(=無期転換申込権が発生する更新)には、
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無期転換を申し込めること(無期転換申込機会)
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無期転換後に適用される労働条件
を、契約ごとに書面(または電子メール等)で明示することが義務化されました。
※一度だけでなく、「無期転換申込権が発生する更新」が続く限り、
その都度明示が必要になる点に注意です。
④ 無期転換後の労働条件について「均衡を考慮して説明するよう努める」
無期転換後の労働条件は、必ずしも正社員とまったく同じである必要はありませんが、
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職務内容
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配置転換の範囲
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責任の重さ
などを踏まえ、バランスの取れた(均衡を考慮した)設定にすることが求められます。
改正では、「均衡を考慮して定めた事項について説明するよう努めること」とされており、
不合理な待遇差がないかどうかを、事前に整理しておくことが重要です。
2.労働条件通知書はここが変わる(実務ポイント)
勉強会資料のサンプル様式にもあるように、
今後の労働条件通知書・雇用契約書では、少なくとも次の点の見直しが必要になります。
(1)更新上限の有無・内容欄を追加
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「更新する場合がある」
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「更新しない」
といった従来のチェックボックスに加え、
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更新上限の有無(無・有)
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有の場合の通算契約期間/更新回数
を明記するスペースを設けます。
(2)無期転換の案内と、転換後の労働条件の欄を追加
無期転換申込権が発生する契約更新のときに、
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「今回の更新で無期転換申込権が発生すること」
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「無期転換を申し込んだ場合の労働条件(雇用区分、賃金、賞与、退職金、所定労働時間 等)」
を書けるようなフォーマットにしておく必要があります。
(3)就業場所・業務の「変更の範囲」も必須に
今回の改正は無期転換だけでなく、労働契約関係の明確化も大きなテーマになっています。(厚生労働省)
全ての労働者について、
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雇い入れ直後の就業場所・業務
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将来の変更の範囲(例:「東京23区内」「会社の定める事業所」など)
を契約締結時・更新時の明示事項として記載義務化。
勤務地限定社員や職務限定社員を導入している会社は、
「限定の範囲」が後々の配転・休職・解雇にも直結する点に注意が必要です。
3.すでに5年を超えている人への対応は?
「実はもう通算5年を超えている有期契約の方がいる…」というケースも少なくありません。
これまでは、会社側から無期転換ルールを積極的に案内する義務はありませんでしたが、
今後は更新のたびに無期転換の案内と条件明示が必要になります。
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無期転換後に労働条件を変更したい場合、
「今まで教えてくれなかったのに、なぜ不利になるのか」と不満につながるリスクも。 -
「こういう制度があるのはご存じですか?」
という形で、対話しながら丁寧に説明する面談がおすすめです。
4.限定社員・限定パートとの関係
改正では、勤務地・職務を限定した「多様な正社員」の導入も後押しされています。
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「場所だけ限定したい」
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「職務内容だけ限定したい」
という希望を持つ社員は今後増えていくと考えられ、
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限定社員用の賃金水準(正社員の8〜9割程度など)
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昇給・手当・転勤の有無
など、限定社員制度そのものの設計が重要になります。
また、業務や就業場所がなくなった場合でも、
直ちに解雇が有効になるわけではなく、整理解雇の4要件(①人員削減の必要性 ②解雇回避努力 ③人選の合理性 ④手続の妥当性)で判断されることは変わりません。
5.チェックリスト
最後に、今回の見直しを踏まえて、
社内で今すぐチェックしたいポイントをまとめます。
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有期契約の労働条件通知書・雇用契約書に
- 更新上限の有無・内容
- 無期転換申込機会・無期転換後の労働条件
- 就業場所・業務の「変更の範囲」
が入っているか? -
無期転換後の労働条件について、正社員との均衡・説明ストーリーを用意できているか?
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すでに通算5年を超えている方に、どう説明・面談を進めるかの方針はあるか?
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限定社員・限定パートをどう位置付けるか、賃金制度・就業規則の整備方針は決まっているか?
一つひとつが、将来のトラブル予防につながります。
まとめ
無期転換ルールの見直しは、
単に「書類の書き方が増えた」だけではなく、
・有期契約をどう位置付けるのか
・無期転換後のキャリアをどう描くのか
という人事戦略そのものを問い直す改正です。
下記を見直しましょう!
◆契約書のフォーマットを修正しましょう
労働条件明示事項の追加に伴い、記載のある新しいフォーマットの契約書を準備しましょう。
◆契約更新回数の制限をするのかを決定しましょう
契約更新回数を設ける場合、きちんと更新できない理由を明確にできるように、
初回の雇用契約締結時に更新条件を明確に伝えておきましょう。
◆限定正社員や限定パートなどの条件を決めましょう
限定正社員を作る場合は、限定されない正社員との労働条件の区別が必要になります。
賃金制度についても再度検討しましょう。
具体的な契約書の修正や制度設計については、
ゆずりはの社労士がサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。